Reporting the underreported threat of nuclear weapens and efforts by those striving for a nuclear free world.

A project of The Non-Profit International Press Syndicate Group with IDN as flagship agency in partnership with Soka Gakkai International in consultative
status 
with ECOSOC.

 

The Political Significance of the UN Nuclear Ban Treaty

|視点|核兵器禁止条約の政治的重要性について(トーマス・ハイノツィ元欧州国際関係省軍縮・軍備管理・不拡散局長)

【ウィーンIDN=トーマス・ハイノツィ】

核兵器禁止(核禁)条約は、1月22日の発効をもって、ますます増加する加盟国(現在は51カ国)を拘束する国際法となる。さらには、加盟する意思のない国に対しても効果を及ぼす。

核兵器国自体が、この条約に反対するという行為によって、条約の効果を証明してしまっている。核禁条約に署名・批准しないように他国に圧力をかけるのでなく、条約を単に無視することもできたはずだからだ。

 

核禁条約は、核不拡散条約(NPT)第6条における核軍縮義務を遵守しようとの意思が核保有国側に欠けていることを白日の下に晒した。NPTが50年前に発効して以来、核兵器国は軍縮を怠ってきただけではなく、軍縮の計画を練り始めることすらしてこなかった。

それどころか、これらの国々が行ってきたことは、核戦力近代化のために数兆ドルを投資し、より洗練された次世代型の核兵器を開発し、その使用のハードルを下げることであった。

米国は、長年にわたって、自分たちは核兵器なき世界を目指しており、そのような世界の実現には法的拘束力のある禁止規範が必要だとの見方を国連で示してきた。であるならば、核禁条約の趣旨そのものが問題なのではなく、核兵器国の意向を待たずに多数の国家がこの条約を実現させてしまったことが問題なのだろう。

核兵器国は条約交渉に招かれたが、ボイコットすることを選んだ。核の傘の下にある国々に対して、交渉に加わらないよう圧力をかけることさえした。そうすることによって核兵器国は、「核軍縮を誠実に追求し、核軍縮につながる協議を妥結させること」を義務付けたNPT第6条に違反したということもできよう。

核兵器国は、核兵器がほぼなくなって初めて禁止規範を生み出すことができると主張して、協議に参加しなかった。こうした態度は、他の種類の大量破壊兵器を禁止した歴史とは、きわだった対照を成している。もしこうした考え方が支配的だったとしたら、化学兵器の禁止は成しえなかっただろう。なぜなら、化学兵器の廃棄はいまだに終了していないからだ。

化学兵器の禁止規範が存在しなかったならば、シリアなどによる近年の化学兵器使用は国際法違反とみなされなかったであろう。この事例は、通常兵器に関する他の事例とあいまって、ある種類の兵器の禁止がその廃棄に常に先行しているのはなぜかをよく説明してくれる。

核禁条約に反対する運動は、同条約ができても核弾頭は一発も減らないという主張を中心としている。しかしその批判は核兵器国自身に跳ね返ってくる。なぜなら、どの条約も、どの非核兵器国も、廃棄する核兵器など持たないからだ。核兵器国が核を廃棄しない限り、人類へのリスクは永続する。

核禁条約はその意味において、核兵器保有国がひとたび条約に加わった際にどのように核を廃棄しどう検証するかについての細かい手続きを将来的な規制にゆだねる、焦点を絞った禁止条約だといえる。交渉に与えられた任務に明らかなように、核禁条約は核兵器の完全廃絶へと導くべく作られたものであり、さらなる法的、実践的措置を作り出す不可欠の基盤となるものだ。

核禁条約が強調したことは、核兵器は人間の価値と国際法に根本から反するということだ。広島・長崎への原爆投下以来、過剰な苦しみを引き起こし数多くの民間人を殺戮する核兵器の使用は、国際人道法に違反していると正しくも論じられてきた。核兵器は違法であるという事実が明白にされることが望まれており、それがついに核禁条約で打ち立てられた形だ。

実際、核兵器が人間に及ぼす壊滅的な帰結と、それがもたらす受け入れがたいリスクは、核禁条約の採択につながったプロセスをもたらした主たる動機であった。たとえ限定的な核兵器による交戦でも、「核の冬」のような世界的な影響をもたらすだろう。

誤解や過失、あるいは技術的な障害が原因で核兵器の爆発する寸前までいった事例が数多く報告されている。核兵器が人間にもたらす被害に対して、人道危機の対応能力は存在しないし、そうしたものを生み出すこともできない。その意味で、そうした惨事を引き起こさないための唯一の保証は、核兵器の禁止とその完全廃絶である。

核禁条約は、冷戦期の二極対立の時代からつづく核抑止という概念が、事実によって疑問に付されるようになった時代において、まさにこの概念の合法性を否定した。多極的でデジタル化された世界において核抑止が効果的であり得ようか。 核システムのハッキングが起き、超音速兵器がその速度と非弾道的な飛行経路を活かして報復の心配なく第一撃を与えることができるかもしれない時代なのだ。

加えて、核抑止概念の信頼性を維持するには、核兵器を使用し、したがって、自らの国民を含めた数百万人の人々を殺戮する準備ができていなければならない、ということを意味する。ドナルド・レーガン大統領は、核兵器が決して使われることのないようにする手段としての核抑止について、かつてこう語った。「しかし、核兵器を完全になくしてしまった方がよくないか。」と。

核兵器の禁止とは、核兵器に依存した安全保障政策を各国が構築してはならないということを意味する。これは、核兵器国だけではなくて、他国の核兵器に自らの安全保障を依存する選択をしている国々に関してもいえることだ。核禁条約は、核兵器廃絶への努力を謳いながら、同時に自らの「保護」のために核の存在を継続的に求めている、いわゆる「核の傘」依存国の矛盾を明らかにした。

ほとんどの「核の傘」依存国において核禁条約への参加を世論の多数が主張しているように、このダイナミズムは、核軍縮に関する重大な議論につながり、軍縮に関する立場の変更へと導くかもしれない。核禁条約のもう一つの効果は、核兵器産業に関与する企業からの投資引き上げの流れができつつあることだ。大規模な公的ファンドがこうした路線をとっているだけではなく、銀行の投資ファンドもますますこの範に倣うようになってきている。

核禁条約の発効は、新型コロナウィルス感染症のパンデミック(世界的大流行)と時期を同じくすることになった。コロナ禍は、核兵器によって勝ち取ることが不可能な、世界・国家・個人の各レベルの安全への脅威となっている。気候変動に始まる現代の主要な難題の多くは、核兵器は言うに及ばず、兵器で対応できるようなものではない。逆に、核兵器の維持と近代化計画は、こうした安全への圧倒的脅威に対処するために必要とされている資金を吸い上げている。

安全保障に関するこのより広い概念が核禁条約の基礎を築いた。国家安全保障と人道的安全保障が意味するところは同じである。すなわち、ある国に住んでいる人々の安全という意味だ。自国が核兵器を使用したならば、民衆は恐ろしい形で被害に遭い、彼らの生存は危機に晒されることになる。第一に、攻撃された国からの予想される核での反撃によって、第二に、人類全体もそうであるように、核戦争が世界的に人間にもたらす帰結によって、である。これはもはや安全保障ではない。

核兵器が世界的にもたらす影響は、全ての国が利害関係や発言権を持つ問題という性格を核軍縮に持たせてきた。核禁条約は、すべての国家を平等のレベルで扱った点において、この事実を反映した初の核軍縮条約となった。

核禁条約は、別の面においても、「ニュー・ノーマル」となる新たな基準を設定した。市民社会は、核禁条約を成立させる上で決定的な役割を果たした。科学者が発見した知見のもたらしたインパクトが交渉に影響を与えた。NGOや国際赤十字委員会はプロセス全体を通じて大きな貢献を成し、その事実は、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)へのノーベル平和賞授与という形で現れた。

これまでにも、サイバー問題や環境問題など、複数の利害関係者を巻き込むアプローチが確立してきたが、今や対人地雷やクラスター弾問題に関しても当たり前のアプローチになっている。核禁条約によって、このアプローチは核軍縮分野にも到達した。安全保障の問題はもはや、軍や外交官の専権事項ではなくなった。

最後に、核禁条約は正しくも、1945年の原爆投下の被害者であるヒバクシャの容認しがたい苦しみに言及している。条約には、被害者支援と環境回復に関する義務も盛り込まれている。交渉時には、核兵器が現実に人間に及ぼす影響が、条約推進の強い動機となっていた。そうしたことから、核禁条約は、個人の運命の問題を中心に据えることに成功した。将来の軍縮諸条約はこの例に倣わねばなるまい。(01.20.2021) INPS Japan/ IDN-InDepth News

※著者のトーマス・ハイノツィ大使(退任)はウィーン大学で1977年に法学博士号を取得し、90年代には既にオーストリア連邦政府欧州国際関係省軍縮・軍備管理・不拡散局長の要職にあった。大使のキャリアは長いが、とりわけ、国連副大使(ニューヨーク駐在)、駐ノルウェー大使、外務省安全保障局長、駐欧州評議会大使(ストラスブルク駐在)、国連欧州本部大使などを歴任。対人地雷禁止条約や核兵器禁止条約など複数の人道的軍縮プロセスに密接に関わる。