Israel’s Nuclear Ambiguity Prodded - Japanese

|イスラエル|「核の曖昧政策」というタブーに挑んだ会議

 【占領下東エルサレムIPS=ピエール・クロシェンドラー】

 イスラエル・パレスチナ間の和平交渉やイランの核開発疑惑に関する協議が続けられる中、エルサレムのノートルダムホテルにおいて「大量破壊兵器(WMD)のない中東」と題したユニークな国際会議が開催された。

これはイスラエルにおいては従来タブーとされてきたテーマである。なぜなら、イスラエルは自国の核兵器保有疑惑について、あえて「意図的に曖昧にする」政策をとり続けているからだ。

この会議では、軍備管理・地域安全保障(ACRS)多国間協議へのパレスチナ代表団元団長のジアド・アブザヤド氏や、元平和調停人で元駐イスラエル・エジプト米大使のダニエル・クーツザー氏、WMD拡散に反対するさまざまな年齢層の活動家等、特異なメンバーが一堂に会した。

また、モルデハイ・ヴァヌヌ氏も出席していたが、彼は外国人に話をすることやイスラエルを離れることを禁止されている。

かつて核兵器開発技術者だったヴァヌヌ氏は、1986年、WMDに反対する動機から、イスラエルの核兵器開発の実態の詳細を英国の『サンデー・タイムズ』紙に内部告発した人物である。ヴァヌヌ氏はその後、イスラエル諜報特務庁(モサド)によってローマで拉致され秘密裏にイスラエルに連行されたのち、裁判の末、国家反逆罪で有罪を宣告された。18年に及んだ監獄生活のうち、独房での重禁固は11年以上に及んだ。

クーツザー元大使は「10年前なら、現実離れした抽象的なテーマの会議ですら(イスラエルで)開催することはできなかったでしょう。」と指摘したうえで、「しかし『WMDのない中東』はもはや絵空事ではなく、この会議は、イスラエルでこれまで強制的に世間の関心から遠ざけられてきた、まさにこのテーマに関する公開イベントなのです。」と、興奮気味に語った。

この会議は、中東地域の平和を目指してパレスチナ・イスラエル双方の進歩的なジャーナリストによる共同編集で刊行されている『パレスチナ・イスラエル・ジャーナル(PIJ)』が主催した。

さらに現在はプリンストン大学で教授(中東政策)を務めるクーツザー元大使は、「こうしたトラック2外交(市民団体や大学の研究者等による「民間外交」)は、いずれトラック1(国家間の政府外交)に影響を及ぼすようになるでしょう。」「それは今年ではないにせよ、来年か再来年にはそうなると思います。」と語った。

この会議は、11月7日にイランと「P5+1」(英国、中国、フランス、ロシア、米国+ドイツ)間の協議第2弾が始まる数日前に開催された。第1弾は前向きな雰囲気の中で終了している。

イランが核武装に向かっているという疑いが国際社会において依然根強い中、中東で唯一核兵器を保有しているとされているのがイスラエルである。

「保有していると『されている』」というのは、イスラエルが、海外の情報源によるこの問題に関する報道を、一度も肯定も否定もしたことがないためである。イスラエルは、「意図的な曖昧さ」のベールを維持するために、核不拡散条約(NPT)にも署名していない。

イスラエルの核政策は、「中東で最初に核兵器を導入する国にならない。」という一文で表現される。

この点について、イスラエルの軍事評論家ルーベン・ペダツール氏は、「イスラエルは(中東で核兵器を導入する)一番目の国にならないとしても、二番目に甘んじることもないだろう。」と皮肉交じりに語った。

ヴァヌヌ氏は、この問題に関する厳格な検閲規定を破ればどうなるか、自身の経験を通じてよく知っている。(イスラエルでは自国の核保有に関する)公論は依然として存在しないのである。「核問題は、イスラエルにおける最後のタブーといってもいいでしょう。」とペダツール氏は語った。

プリンストン大学の主席研究物理学者フランク・フォン・ヒッペル氏は、「中東における核分裂性物質の管理」と題した発表の中で、プルトニウム分離・使用の禁止、高濃縮ウラン燃料使用の停止、6%以上のウラン濃縮の停止、新規ウラン濃縮施設建設の禁止を提案した。

(「WMDのない中東」がテーマのこの会議で)イスラエルの核計画が最も関心を集めたのは自然な成り行きであり、(同国の核開発の中心地とみなされている)ディモナの核施設が俎上にのぼった。フォン・ヒッペル氏の世界的な提案に対して、イスラエルがなさねばならないのは、「イスラエルのプルトニウムや高濃縮ウラン備蓄の凍結、宣言、そして段階的な削減」である。

しかしパネリストらは、世界でもっとも不安定な地域からもっとも不安定な兵器をなくす必要性については総論的に見解の一致を見たものの、中東で核兵器を保有しているとされる唯一の国(=イスラエル)に焦点を当てることの実践的な意義については、一致に至らなかった。

ペダツール氏は、「素晴らしい提案だが時期尚早だ。」と指摘したうえで、「イスラエルの核問題から議論を始めるべきではありません。もし米国がイスラエルに圧力をかけることがあるとしても、おそらくだが、残念なことに、米国がイスラエルにインセンティブを与えられるとは思えません。」と語った。

この点については同意見のクーツザー元大使は、「米国はとりわけ核兵器拡散を止めることに関心を抱いています。イスラエルに関しては、同国が核保有を公式宣言していないという問題と、所与の前提である米国との強力な二国間関係にあるという厳然たる現実に立ち返らざるを得ません。」と語った。

イスラエルは、マドリッド平和会議(1991年)ののち、ACRS多国間協議に加わった。しかし、イスラエルが地域の安全保障という要素を議論の優先課題としたのに対して、(エジプト率いる)アラブ諸国が軍備管理の要素、すなわち保有疑惑のあるイスラエルの核兵器の管理を優先課題とした。その結果、両者間の協議は1995年に頓挫した。

イスラエルは、自国の核保有に関して「決して明らかにしない」という自国のみに都合の良い立場を前提に、中東非WMD地帯について議論し、いわゆる永遠の敵に対する究極の抑止力を放棄する用意があるとしている。しかもこの提案には、「パレスチナやシリア、イランなどの隣国全てとの包括的和平合意の枠内で」という前提条件が課されている。

これは、およそ仮想的で実現しそうにない前提条件である。

「イスラエルは国際社会にその事実上の核保有国の立場を認めさせようとしているのです。しかし、『イスラエルが核兵器を保有していないとの前提ならば中東非核地帯に反対しない』という論理は、まったく馬鹿げているというほかありません。」とアブザヤド氏は嘆いた。

アブザヤド氏の意見は従来のパレスチナの立場を代弁するものである。つまり、核兵器の問題と和平の見通しが「順番にではなく、同時に関連付けられながら」アプローチされねばならない、というものだ。

それでは核兵器の問題と中東和平の見通しの問題の間に、あるいはそれらの中に、何らかの連関はあるのだろうか?

「外交官による公式回答であれば『ノー』ということになるだろう。ところが、妨害で中止に追い込まれることなく、このような市民団体の集会で議論が行われてしまえば、両者の間には何らかの関連があるということになるのです。」とクーツザー元大使は語った。

イスラエルは、自国の核計画と現在芽生えつつある中東地域の緊張緩和との間にはいかなる関連性もないと主張している。

アブザヤド氏とPIJを共同編集しているヒレル・シェンカー氏は、「シリアから化学兵器を移動させるとの米ロ合意、1979年以来初となった米国・イラン大統領の会談、3年ぶりに再会されたイスラエル・パレスチナ間の和平交渉…」等の事例を挙げながら、「これらの出来事により、中東非WMD地帯の実現に向かって前進していくための建設的な下地が形成されつつあります。」との見解を示した。

これに対してペダツール氏は、会議の楽観主義的な雰囲気に冷水を浴びせるかのように、逆の要素を挙げていった。「シリア内戦での化学兵器使用、イラン核危機が今日まで解決されていないこと、イスラエルが依然として核兵器を保有し、パレスチナ占領を続けていること。中東非WMD地帯がすぐにでも実現しそうにないこと。」

クーツザー元大使は「米国がその影響力と権力を行使する用意に応じて、中東非WMD地帯の可能性に関する議論を行うだけではなく、実際にこれらの問題への取り組みを始めることを容易にするような地域安全保障に関する新たな局面が開かれる可能性があります。」と語った。

アブザヤド氏は、「イスラエルの話をすれば、イスラエルはイランの話をします。するとイランはパキスタンの話をし、パキスタンはインドの話を…といった具合に、核の連鎖は続いていくことになるのです。」と指摘したうえで、「(核兵器廃絶に関する)世界的な取り決めが必要です。」と主張した。

会議は、イスラエルの事実上の核保有をめぐる検閲を破ることには成功したかもしれないが、実効性のある中東非WMD地帯を創設するというイスラエルにおけるタブーを破るところまではいかなかったようだ。(11.07.2013)  IPS Japan